掬い上げるもの

日々の中から掬い上げたさまざまな思いを綴る、俳句&エッセイ。 一話があっという間の短さです。 どこから読んでも、好きなとこだけついばんでもよし。 よろしければ、お茶やコーヒー片手に気楽にお付き合いくださいませ。 マイナスイオンを深呼吸したい方も、ぜひお立ち寄りください♪

2023-01-01から1年間の記事一覧

憂い

信じる

秋思きて信じたきものかたちなく 秋思《しうし》は、秋の寂しさに誘われて心に生まれるもの思い。秋の季語。 秋の夜中。 ふと、目が覚めてしまった。 すぐにまた寝つけると思ったのに、なかなか眠気はやって来てくれない。 いつもは全く聞こえない時計の秒針…

思い出

掌に残るもの

拾ふ葉も捨つる葉も美《は》し紅葉狩 「紅葉狩」は、紅葉の名所を訪れ、その美しさを眺め味わうこと。秋の季語。 美しい紅葉がたくさん落ちていると、拾いたくなる。 好みの形や色をした葉を、何となく探す。 一番気に入った一枚を選んで、掌に乗せる。 そう…

麗人

今いる場所で

ふたつほど湯呑しずめて秋の水 秋になると、野外や器の中、台所など、どこに存在する水も、静かに澄み渡る気配を持つ。「秋の水」は、そんな水の様子を表す。秋の季語。 高く澄んだ空や、爽やかな風、穏やかな陽射し。 そんなものを映し込むせいだろうか。 …

深呼吸

無表情な雨

籠めらるるより秋霖の中へ出づ 秋霖《しゅうりん》は、「秋の雨」の傍題。他に「秋雨」や「秋黴雨《あきついり》」という傍題もある。 9月中旬〜10月中旬は、「秋の長雨」とも呼ばれる雨の時期である。「秋雨」はどこか薄寒く、気持ちも浮き立たない。「秋霖…

世界一幸せなカフェ

*このエッセイの一つ前の記事『傷痕』のイラストの男が登場する短編です。よろしければどうぞお付き合いください(*´꒳`*)* ◇◇◇ ミシェルは、雨の中を歩いた。 勤める会社で、上司に恋をした。 知的で有能な上司は、地味で冴えない事務員のミシェルにも優し…

傷痕

狐花

生といふ唐突なもの狐花 「狐花」は、「曼珠沙華」の傍題。彼岸花とも呼ばれる。畑の側や墓地など人里近くに群生する。彼岸頃の時季に、まっすぐな茎を伸ばし、赤く鮮やかな輪状の花を咲かせる。秋の季語。 狐花。 曼珠沙華、彼岸花といった名の方がピンと来…

満月の色

望月の色あたたかき窓のごと 「望月」は、「名月」の傍題。陰暦の8月15日、「中秋の名月」を指す。秋の季語。 この日に月見団子などを供えて月を祀るのは、収穫を祈る農耕儀礼の名残という。 中秋の名月。2023年は9月29日だ。 この日は、一年で最も月が美し…

夜風の匂い

秋の夜の雨の匂ひのあまきこと 秋の初め。 窓を少し開けると、静かな雨の音がした。 それと同時に流れ込んで来た風は、とても甘い匂いがした。 からっと爽やかな好天の後だからだろうか。 その匂いは、乾いた土や葉が湿り気を吸って放つ匂いなのかもしれない…

祈り

特別な香り

どの家も柚子を灯して郷の暮る 柚子は、秋の季語。黄色に熟したものは高い香りと強い酸味を持ち、果皮は料理等の香りづけに使われる。果肉は搾って酸味料などにする。 柚子の皮を噛み締める時に広がる、あの香りが大好きだ。 好きな香りや味はたくさんあるが…

野良猫と幸せ

自らに満たされている猫の秋 俳句の上では、「秋」は立秋(2023年は8月8日)〜立冬(2023年は11月8日)の前日まで。この期間は秋の季語を詠む。 家の庭に、ガーデン用の白い椅子がある。 毎日我が家の庭へ通《かよ》って来る野良猫が、その上に寝そべってい…

かたちのないもの

かたちなきものに包まれ秋日和 「秋日和」は、「秋晴」の傍題。秋空が澄み、晴れ渡ること。秋の季語。 九月。だんだんと、日中の陽射しにも秋の色が感じられるようになる。 夏のぎらぎらする黄金色の光が、淡いオレンジ系の穏やかな色合いに変わっていく。太…

人を待つ(落書き)

川面と記憶

遠ざかるものみなひかる秋の川 「秋の川」は、秋の季語。 澄んだ秋空や紅葉を映して冷やかに流れる。 俳句の上では、「秋」は立秋(2023年は8月8日)〜立冬(2023年は11月8日)の前日まで。 私の母の生家のすぐ側には、大きな川が流れている。 水郷と呼ばれ…

耳で見る闇

虫の音や闇に銀の弧交しつつ 「虫の音」は、「虫」の傍題。俳句において「虫」と言えば秋に鳴く虫のことで、特に秋の草むらに集《すだ》く虫だけを指す。「虫時雨」は、虫の鳴き交わす声を時雨に例えた言葉。秋の季語。 夏の暮れ。昼間はまだ暑くても、朝夕…

夏の果

共に陽を捥《も》いで別れる夏の果 「夏の果《はて》」は、夏の終わり。晩夏になると朝晩は涼しくなり、夏が終わりに近づいていることを感じる。夏の季語。 八月の終わりは、独特の切なさがある。 まだ暑さはあるものの、夏も残り少ない気配が強く漂うように…

林檎と愛

林檎買ふ男は女思ふらん 林檎は、バラ科の落葉高木。秋の季語。 近くのスーパーのレジに並んだ。 ふと見ると、前に並んでいる初老の男性のカゴの中に、林檎が入っている。 林檎を、自分が食べたくて買う男性は、どれくらいいるだろう。 仮に林檎を好むとして…

星の営み

叩きつけ砕けるための野分かな 野分《のわき》は、秋の暴風のこと。「野分の風」の略。草木を吹き分けるほど強い風、という意味から起こった名。多くは台風を指す。秋の季語。 台風が、目の前で凄まじい力を見せつけている。 建物の壁や屋根に叩き付ける雨は…

絶対と相対

昨日より今日なほ深し秋の空 秋の青空は、高く大らかに澄み渡る。秋の季語。 10年前と今を、比較してみる。 例えば、自分の顔や体つき。 結構変わったな…そう思う人がほとんどではないだろうか。 考え方もそうだ。 10年の間には、誰もが多くのことを経験する…

大人の舌

何時よりの大人の舌や心太 心太《ところてん》は、天草《てんぐさ》を原料とする涼やかな嗜好品。夏の季語。 味覚は、成長につれて大きく変化していく感覚のひとつだと思う。昔好きだったけれど、今はほとんど食べない……という食品も、数えてみればかなり多…

Say it

秋暑し深夜のジャズに凭《もた》れけり 「秋暑し」は、「残暑」の傍題。立秋を過ぎても残る厳しい暑さのこと。秋の季語。 立秋は過ぎたものの、まだまだ暑い。むしろ、この粘り着くような酷暑はぐったりと身体にこたえる気がする。 そのため、昼間は冷房を効…

風の季節

日も熱も風に吹かれて秋立てり 「秋立つ」は、「立秋」の傍題。2023年の立秋は8月8日。これ以降は俳句の上での季節は秋になり、秋の季語を詠む。 夏が太陽の季節ならば、秋は風の季節という気がする。 秋の気配は、風が連れて来る。 地上はまだまだ暑いのに…

振り返る