掬い上げるもの

日々の中から掬い上げたさまざまな思いを綴る、俳句&エッセイ。 一話があっという間の短さです。 どこから読んでも、好きなとこだけついばんでもよし。 よろしければ、お茶やコーヒー片手に気楽にお付き合いくださいませ。 マイナスイオンを深呼吸したい方も、ぜひお立ち寄りください♪

幸せの距離


 寄せて引きてやがてきらめく秋の海


「秋の海」は、高い秋空の下の、爽やかな海。
 浜辺も、寄せる波も、夏に比べて清く澄んで感じられる。秋の季語。


 

 秋の海は、静かだ。
 夏の賑わいをとっくに忘れたような静けさに、波の音だけが果てることなく繰り返す。

 沖の静かなきらめきを見つめる。
 少し寒い風に髪を乱されながら、砂の上を歩く。


 ちょっと冷たくても、水に足をつけてみたくなる。
 しゃがんで、欠けていないきれいな貝殻を探したくなる。

 普段は意識の遥か向こうへ押し出されているような、そんな他愛のないことが楽しい。


 秋の海の前では、無理に喋る必要がない。

 波の音がして、海がきらめいて、強い風が吹いて——

 それだけでいい。
 ただ、それを感じていればいい。——何かが、そう言ってくれている気がする。


 他にはどこにもない、とても不思議で、穏やかな時間。

 


 ひとの心も、海に似ている。
 思いは、時に寄せて、時に引いて——それを繰り返している。

 

 どんな幸福感も、片時も離れず側にあるのが一番いいのかと言えば——そうではないかもしれない。


 いつもいつも側にあれば、それはいずれ「幸せ」でなく、「当たり前」になってしまう——そんな気がする。
「当たり前」を心から大切にし続けるのは、難しいことだ。

 

 寄せて、引く。引いて、また寄せる。
 少し遠くなったり、また近づいたりする——その距離感が、一番「幸せ」というものを実感できる気がする。

 


 そして———
 悲しい記憶は、寄せたり引いたりしながら、少しずつ遠ざかり——。
 大切な思いは、引いてもまた必ず寄せて、離れてゆくことなく。

 ——そんなふうにあってほしい。

 

 秋の海に、さまざまな思いを静かに浮かべながら——そんな身勝手なことを考えたりする。

 

 

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