叩きつけ砕けるための野分かな
野分《のわき》は、秋の暴風のこと。「野分の風」の略。草木を吹き分けるほど強い風、という意味から起こった名。多くは台風を指す。秋の季語。
台風が、目の前で凄まじい力を見せつけている。
建物の壁や屋根に叩き付ける雨は、その勢いの強さに細かいしぶきとなり、煙のように砕け散っていく。
緩む隙さえなく、びゅうびゅうと吹き付ける風。
雨がその強風に煽られ、真っ白い一塊の煙となって真横に吹き飛ばされていく。
凄まじい自然の力。
しかし——この破壊的なパワーには、何の意味もない。
自然の条件により発生し、地球の表面をその威力で荒らし、かき乱し……ひたすら吹き荒れる。
そして、時が来れば少しずつ勢力を失い——やがて鎮まり、消えていく。
ただそれだけの、巨大な力の塊。
この星に棲む人間にとっては、大きな被害をもたらす悩みの種だ。
しかし、星の営みは、人間の事情などこれっぽっちも汲み取ってはくれない。
星も、生きている。
人が呼吸をするように、自然界の大規模な活動は全て、ただ星が生きているその営みに過ぎない。
命のある限り、この星は……そしてその自然は、無意味に強大な力で動き続ける。
そんな星の営みに翻弄され、時に怒り、嘆き哀しむ人間。
それによりもたらされるものへ、ひとはさまざまな思いを注ぎ込む。
こんなに細やかな「感情」というものを持った人間が、こんなに荒々しい星の上で暮らすのは、どう考えても容易ではない。
それでも——ひとはその苦しみの中にも、明るいものを見つけながら生きていく。
そうやって、さまざまな思いを抱えながらも困難の中を生きる人間は、やはり強靭な生命力を持った生き物なのだろう。
そして——吹き荒れる野分を耐えた後には、爽やかに突き抜ける秋晴れが私たちを包む。