掬い上げるもの

日々の中から掬い上げたさまざまな思いを綴る、俳句&エッセイ。 一話があっという間の短さです。 どこから読んでも、好きなとこだけついばんでもよし。 よろしければ、お茶やコーヒー片手に気楽にお付き合いくださいませ。 マイナスイオンを深呼吸したい方も、ぜひお立ち寄りください♪

星の営み

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 叩きつけ砕けるための野分かな


 野分《のわき》は、秋の暴風のこと。「野分の風」の略。草木を吹き分けるほど強い風、という意味から起こった名。多くは台風を指す。秋の季語。

 

 

 台風が、目の前で凄まじい力を見せつけている。

 建物の壁や屋根に叩き付ける雨は、その勢いの強さに細かいしぶきとなり、煙のように砕け散っていく。
 緩む隙さえなく、びゅうびゅうと吹き付ける風。
 雨がその強風に煽られ、真っ白い一塊の煙となって真横に吹き飛ばされていく。


 凄まじい自然の力。
 しかし——この破壊的なパワーには、何の意味もない。


 自然の条件により発生し、地球の表面をその威力で荒らし、かき乱し……ひたすら吹き荒れる。
 そして、時が来れば少しずつ勢力を失い——やがて鎮まり、消えていく。
 ただそれだけの、巨大な力の塊。

 この星に棲む人間にとっては、大きな被害をもたらす悩みの種だ。
 しかし、星の営みは、人間の事情などこれっぽっちも汲み取ってはくれない。


 星も、生きている。
 人が呼吸をするように、自然界の大規模な活動は全て、ただ星が生きているその営みに過ぎない。
 命のある限り、この星は……そしてその自然は、無意味に強大な力で動き続ける。

 そんな星の営みに翻弄され、時に怒り、嘆き哀しむ人間。
 それによりもたらされるものへ、ひとはさまざまな思いを注ぎ込む。


 こんなに細やかな「感情」というものを持った人間が、こんなに荒々しい星の上で暮らすのは、どう考えても容易ではない。


 それでも——ひとはその苦しみの中にも、明るいものを見つけながら生きていく。

 そうやって、さまざまな思いを抱えながらも困難の中を生きる人間は、やはり強靭な生命力を持った生き物なのだろう。

 

 そして——吹き荒れる野分を耐えた後には、爽やかに突き抜ける秋晴れが私たちを包む。