掬い上げるもの

日々の中から掬い上げたさまざまな思いを綴る、俳句&エッセイ。 一話があっという間の短さです。 どこから読んでも、好きなとこだけついばんでもよし。 よろしければ、お茶やコーヒー片手に気楽にお付き合いくださいませ。 マイナスイオンを深呼吸したい方も、ぜひお立ち寄りください♪

川面と記憶

 

 遠ざかるものみなひかる秋の川

 


「秋の川」は、秋の季語。
 澄んだ秋空や紅葉を映して冷やかに流れる。
 俳句の上では、「秋」は立秋(2023年は8月8日)〜立冬(2023年は11月8日)の前日まで。
 


 私の母の生家のすぐ側には、大きな川が流れている。
 水郷と呼ばれるその街の一帯は、かつては舟が重要な交通手段だった。
 今も、その面影を色濃く残す趣のある街並が残っている。川沿いに観光用の小舟が用意され、水路を巡って観光客を楽しませる。

 私も幼い頃から両親に連れられ、帰省がてらよくその川へ遊びに出かけた。
 水路巡りの小舟に乗った時には、船頭がこともなげに船縁を歩きながら長い棒で船を操る様子に、内心ひやひやした記憶がある。


 今も、その街へ時々出かける。
 ゆっくりと流れる時間が心地よい。


 秋晴れの午後。
 何気なく、客を乗せて水路を行く小舟を眺めた。
 舟は、穏やかな波立ちの跡を水面に残しながら、秋風の中を進んでいく。
 波紋が、静かに落ちる陽射しにきらきらと輝く。

 川の面は、遠くにいくほど強く輝く。
 眼下ではひたすら穏やかに見える水の色は、遠ざかるほど強く陽射しを反射する。
 秋風に水面がさざめき、それは細やかな輝きを見せて遠くまで続いている。

 
 高く澄んだ空を仰ぎ、川の匂いのする風を胸に吸い込んだ。
 昔、母が味わったであろう同じ空気を。
 少し冷たく爽やかなその風は、さらさらと静かに髪を撫でて流れていく。 

 

 目の前にあるうちは、それがどんな輝きを持つものか気づかないのだが——遠ざかれば遠ざかる程、愛おしいきらめきを強くする。
 秋の川面は、なんだか自分の記憶と似ている——そんな気がした。