掬い上げるもの

日々の中から掬い上げたさまざまな思いを綴る、俳句&エッセイ。 一話があっという間の短さです。 どこから読んでも、好きなとこだけついばんでもよし。 よろしければ、お茶やコーヒー片手に気楽にお付き合いくださいませ。 マイナスイオンを深呼吸したい方も、ぜひお立ち寄りください♪

Say it


 
 秋暑し深夜のジャズに凭《もた》れけり


「秋暑し」は、「残暑」の傍題。立秋を過ぎても残る厳しい暑さのこと。秋の季語。

 


 立秋は過ぎたものの、まだまだ暑い。むしろ、この粘り着くような酷暑はぐったりと身体にこたえる気がする。
 そのため、昼間は冷房を効かせた室内から出られない。少し外に出れば、蒸し風呂のような外気の熱に逃げ場のない息苦しさを感じる。


 そんな残暑の最中の、ある夜更け。
 エアコンを切り、窓を開けた。

 外の空気は涼しさなど全く感じさせず、心地よさは得られなかったが——
一日中窓を閉め切り、冷房を効かせた空間に缶詰のように閉じ込められた圧迫感が、窓の隙間から流れ出していった。

 室内の冷気が緩むとともに、身体のどこかもほっとしたように緩む。


 暑さを和らげたくて、照明を少し落とす。
 ——いっそ、気怠くて甘いジャズバラードが聴きたくなった。

 

 無類のコーヒー好きだ。季節を選ばず、ほぼホットで飲む。
 アイスコーヒーも、口当たりがよくて美味しいのだが——私の中では、いつもどこか飲んだ気にならない。 
 

 ジョン・コルトレーンの"Say it"は、大好きな一曲だ。
 サックスの甘く伸びやかな音を聴きながら、湯気の立つコーヒーを啜る。
 気づくと、首筋が少し汗ばんでくる。
 ——身体が重く溶けていくような、心地よい気怠さ。


 怠さというのは、普段ならば一刻も早く追い払いたい厄介者だ。
 しかし——時には、こんなふうに甘くまとわりつく怠さに、身体をすっかり預けてしまうのもいい。


 頬杖をつき、そんなことをとろとろと思っているうちに——いつしか、ジャズが紡ぐ旋律に背を凭せかけているような錯覚を覚えた。

 

 残暑の熱の残る深夜。重たく甘い気怠さに、身体を委ねたひとときだ。

 

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