掬い上げるもの

日々の中から掬い上げたさまざまな思いを綴る、俳句&エッセイ。 一話があっという間の短さです。 どこから読んでも、好きなとこだけついばんでもよし。 よろしければ、お茶やコーヒー片手に気楽にお付き合いくださいませ。 マイナスイオンを深呼吸したい方も、ぜひお立ち寄りください♪

夜風の匂い

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 秋の夜の雨の匂ひのあまきこと

 

 秋の初め。

 窓を少し開けると、静かな雨の音がした。
 それと同時に流れ込んで来た風は、とても甘い匂いがした。

 からっと爽やかな好天の後だからだろうか。
 その匂いは、乾いた土や葉が湿り気を吸って放つ匂いなのかもしれない。


 しっとりとした重みのある、甘い匂いの風。
 その滑らかな肌触りとひんやりした心地よさに、しばらく思考を止めて浸った。

 

休肝日」という言葉がある。
 毎日アルコールを摂取せず、週に一度程度は肝臓を休ませよう、という意味の言葉だ。

 本当は、脳や心だって、休養する日が必要なはずだ。肝臓と同じくらいに。

 だが、目まぐるしく動いていく日々の中で、脳や心に休養を与えるなんて、そう簡単なことではない。
 むしろ——人間の脳は、常に何かを考え、悩むように初期設定《デフォルト》されているような気すらしてくる。

 もし、他の動物達が人間の脳の苦しみを知ったら、さぞ私たちを不憫に思うことだろう。


 時には、脳と心を休ませたい。
 虫や鳥、猫——陽射しや風だけを感じながら生きる、彼らのように。
 たとえ、どんな悩みの中にいても。


 それは、時たま出かける旅行や、そんな特別な時だけに限ったりせず——
 日々の中の僅かな時間でもいい。
 何も悩まず、何も考えない時間。
 ただ呼吸をして、風の匂いをひたすら感じる、どこまでも静かなひととき。

 そんな時間を持てたら——
 もしかしたら……自分の中の何かが、少しずつ変わるのかもしれない。


 
 とりとめなくそんなことを思いながら、秋の夜風の甘い匂いを、肺一杯に吸い込んだ。