掬い上げるもの

日々の中から掬い上げたさまざまな思いを綴る、俳句&エッセイ。 一話があっという間の短さです。 どこから読んでも、好きなとこだけついばんでもよし。 よろしければ、お茶やコーヒー片手に気楽にお付き合いくださいませ。 マイナスイオンを深呼吸したい方も、ぜひお立ち寄りください♪

かたちのないもの


 かたちなきものに包まれ秋日和


秋日和」は、「秋晴」の傍題。秋空が澄み、晴れ渡ること。秋の季語。


 
 九月。だんだんと、日中の陽射しにも秋の色が感じられるようになる。

 夏のぎらぎらする黄金色の光が、淡いオレンジ系の穏やかな色合いに変わっていく。太陽の通り道がだんだんと頭上から移動し、光が斜めから差していることがよくわかる。


 秋晴れの日。
 深く、高く澄んだ空。明るく穏やかな陽射し。
 和紙のように薄い純白の雲。爽やかに頬を撫でていく風。

 どの要素を取っても、文句なく心地よい。
 ここに存在していることに、満ち足りた幸せを感じる。


 自分の手の中に、何かを得たわけではない。
 掌を見つめても、そこには何もなく——自分の身の回りに、何か贅沢な物が増えた訳でもない。
 ただあるのは——光と、空と、風だ。

 そんな、かたちのないものたちが、この上なく満たされた幸福感を与えてくれる。


 本当に心を満たしてくれるものには、形がない。
 本当に大切なものは、心を働かせなければ見えない。そこに間違いなくあると信じなければ、存在を感じることができない。
 人との絆や、友情、愛情、信頼——どれもそうだ。

 目に見えないからこそ、本気で大切にしなければならない。
 大切にしようと努力すれば、柔らかに自分を包み、幸福感で満たしてくれる。
 手で触れることのできない——心で感じる以外にない、不確かなもの。

 そんな、目に見えないものに包まれる幸せ。
 ——それは、何にも代え難い。

 

 秋晴れの日の心地よさ。
 自分の大切な人たちが側にいてくれる安らかさ。
 お金や権力で手に入るどんな贅沢な品物よりも、深い幸福感を与えてくれるものがある。心を満たし、支えてくれるものがある。

 そんな、形のないものたちの存在を細やかに感じ取れる心を——鈍らせないように、持ち続けたいと思う。