望月の色あたたかき窓のごと
「望月」は、「名月」の傍題。陰暦の8月15日、「中秋の名月」を指す。秋の季語。
この日に月見団子などを供えて月を祀るのは、収穫を祈る農耕儀礼の名残という。
中秋の名月。2023年は9月29日だ。
この日は、一年で最も月が美しい夜とされる。また虫の音や秋風など、その澄んだ輝きを一層際立たせる情緒に満ちた時季であることも、月を愛でるのに最もふさわしいといえるだろう。
満月を見上げる。
僅かな黄色みを帯びた、美しく円い輝き。
月が球体ではなく、空に円を貼り付けたように平面的に見えるのは、月の表面を覆う砂(レゴリス)が、光を乱反射させる性質を持つからだという。
月の明かりといえば、ひんやりと冷たいイメージが持たれやすいが——私には、満月の輝きは温かく見える。
特に、上空高く登りきる前の、柔らかな月の色。
黄色やオレンジというような暖色を含む白色の光は、何とも優しく、温かい。
こよなく月を愛でた昔。
かつては、いまのように溢れるような光などなかった。
夜になれば、外は真っ暗闇だ。
そんな闇に浮かぶ満月の輝きは、どんなに明るく、美しく、慕わしいものだったろう。
月の中に——あのあたたかい光の窓の中に、命のある何かがいる。
想像もつかないような、美しく高貴なものが、あの光の中に住んでいる。
今、こうして見上げていても、そんな気持ちにさせられるのだから——
ただの空想ではなく、かつての人々が本当にそう考えていたとしても、全く不思議ではない。
毎年、満月の夜はよく晴れることを祈る。
美しい満月を見たい。
これは、どれだけ時代が変わっても人々が変わらず望み続けることなのかもしれない。
もしも、月が雲の上にあるとしても——こんな想像をしながら月見団子を食べれば、また楽しいだろうか。
雲の原くまなく照らし望の月