林檎買ふ男は女思ふらん
林檎は、バラ科の落葉高木。秋の季語。
近くのスーパーのレジに並んだ。
ふと見ると、前に並んでいる初老の男性のカゴの中に、林檎が入っている。
林檎を、自分が食べたくて買う男性は、どれくらいいるだろう。
仮に林檎を好むとしても、自分で自分のカゴに入れる男性は少ないんじゃないだろうか。
ふと、そんなことを思った。
きっと、この男性も、奥さんに頼まれたか——または、林檎が好きな奥さんのために買って帰るのか——いずれにしても、その男性の後ろに、長年連れ添った女性の存在がある気がしてならなかった。
男性が林檎を買うのは、自分のためではなく、愛する女性のためなのかもしれない。
——林檎を求める男は、そのとき、女のことを思っている——。
スーパーのレジの何気ない一場面が、そんな普遍的なことに繋がっているような気がして、ふと詠んでみた一句だ。
もし、カゴの果物がバナナやオレンジだったとしたら、きっとこんな思いは浮かばなかっただろう。
林檎は、愛を連想させる不思議な果物なのかもしれない。