掬い上げるもの

日々の中から掬い上げたさまざまな思いを綴る、俳句&エッセイ。 一話があっという間の短さです。 どこから読んでも、好きなとこだけついばんでもよし。 よろしければ、お茶やコーヒー片手に気楽にお付き合いくださいませ。 マイナスイオンを深呼吸したい方も、ぜひお立ち寄りください♪

林檎と愛


 林檎買ふ男は女思ふらん


 林檎は、バラ科の落葉高木。秋の季語。

 

 

 近くのスーパーのレジに並んだ。
 ふと見ると、前に並んでいる初老の男性のカゴの中に、林檎が入っている。


 林檎を、自分が食べたくて買う男性は、どれくらいいるだろう。
 仮に林檎を好むとしても、自分で自分のカゴに入れる男性は少ないんじゃないだろうか。
 ふと、そんなことを思った。


 きっと、この男性も、奥さんに頼まれたか——または、林檎が好きな奥さんのために買って帰るのか——いずれにしても、その男性の後ろに、長年連れ添った女性の存在がある気がしてならなかった。

 男性が林檎を買うのは、自分のためではなく、愛する女性のためなのかもしれない。


 ——林檎を求める男は、そのとき、女のことを思っている——。

 スーパーのレジの何気ない一場面が、そんな普遍的なことに繋がっているような気がして、ふと詠んでみた一句だ。

 

 もし、カゴの果物がバナナやオレンジだったとしたら、きっとこんな思いは浮かばなかっただろう。
 林檎は、愛を連想させる不思議な果物なのかもしれない。