掬い上げるもの

日々の中から掬い上げたさまざまな思いを綴る、俳句&エッセイ。 一話があっという間の短さです。 どこから読んでも、好きなとこだけついばんでもよし。 よろしければ、お茶やコーヒー片手に気楽にお付き合いくださいませ。 マイナスイオンを深呼吸したい方も、ぜひお立ち寄りください♪

闇に帰る光


 闇となる際を見つめて揚花火


 揚花火は、打ち上げ花火のこと。夏の季語。

 

 打ち上げ花火は、夏の風物詩ともいえる心の浮き立つイベントだ。

 美しく夜の闇に開く巨大な花。
しかし、その音も鮮やかな輝きも、一瞬で消え去り、後には何も残らない。

 こんなにスケールの大きな高揚感と儚さを同時に味わえるものは、他にないだろう。

 

 ——今、打ち上げ花火が夜空に上がった。
 胸に響く破裂音とともに開いた花火は、色鮮やかに巨大な輪を頭上に広げる。
 そして、その鮮やかな花は一瞬で最高潮を迎え——あっという間に闇へ帰っていく。
 今確かに存在したはずの美しい光の輪は、一瞬の後には、ただ眼裏《まなうら》に焼き付いているだけ。
 ——そんな刹那の美しさを、私たちは心から愛する。


 打ち上げ花火の中で一番好きなのは、しだれ花火だ。
 しだれ花火は、柳の枝のように下へ向けて光の筋を引きながらゆっくりと消えていく、金色の花火だ。
 輝く網を一斉に広げたように、無数の光の筋が空を埋め尽くす。
 その筋が夜空を流れ落ち、少しずつ輝きを失い——闇に戻るまでの時間。
 それはほんの僅かな数秒のはずなのに——その移ろいは、まるでスローモーションのように静かな映像となって、私の心に刻まれる。


 光が完全に闇に戻るその瞬間まで——私はその軌跡を見つめ続ける。
 光が闇に帰るその余韻が、打ち上げ花火の一番味わい深い部分のように思えるから。

 


 一瞬で消え去る輝き。
 だからこそ、この上なく美しい。
 だから、打ち上げ花火を見上げる全ての人は、その美しさをそれぞれの思いで味わい、愛することができるのだろう。