掬い上げるもの

日々の中から掬い上げたさまざまな思いを綴る、俳句&エッセイ。 一話があっという間の短さです。 どこから読んでも、好きなとこだけついばんでもよし。 よろしければ、お茶やコーヒー片手に気楽にお付き合いくださいませ。 マイナスイオンを深呼吸したい方も、ぜひお立ち寄りください♪

命の気配

 
 目を閉ぢてさえずりの中夏あかつき

 
 夏の暁《あかつき》。明け方は、一日で最も気温の低い時間帯。夏の明け方の空気には何とも言えない爽快感がある。夏の季語。

 

 明け方に目覚めた。
 時計を見ると、午前5時少し前。空は少しずつ明るくなり始めている。


 窓から、ひんやりとした空気が流れ込んでくる。
 日中のギラギラした黄金色とは違い、夏の早朝の陽射しの色は涼やかで、どこまでも爽やかだ。

 まだ起床までには少し時間がある。
 心地よく引き締まった空気を感じながら、もう一度目を閉じてみた。

 

 ——鳥の声がする。
 溢れる程の、鳥たちの鳴き交わす声。

 こんなにたくさんの鳥が、こんなにも囀《さえず》りを楽しむ時間があるのだ。

 透き通るうぐいすの谷渡りの声。
 それから——ひとつひとつの声の主は分からないが、無数に重なる囀り。

 鳥たちの声に、取り巻かれる。
 まるで、降り注ぐ囀りの中に佇んでいるかのように。


   それは、生き物の気配が漲る時間。
 人知れず存在する、楽園のようなひととき。


 ——新しい空気をひとつ深く吸い込んで、瞼を開けた。

 

 夏の暁は、パワーに満ちた一日の始まりにふさわしい、動き出そうとする生命の気配に溢れている。
 耳を傾ければ、清々しい大気に漲る命を感じることができる。