生きしこと耳に残して油蟬
油蟬は、「蟬」の傍題。夏の季語。
蟬の声がだんだんと耳に入りはじめる季節は、心にも明るい力が生まれ出る。
蟬の声は夏の気配を否応なく盛り上げる。
同じ蟬でも、蜩《ひぐらし》は、早朝や夕方に、カナカナ…と、涼しくどこか悲しげな声で鳴く。
一方で油蟬は、それこそ脂汗でも滲んできそうなジージーという大声が、ともすると鬱陶しくさえ感じられる。
蟬が鳴くのは、雄だけだ。雌に求愛するための鳴き声だという。より声の大きな雄が、雌を引き寄せる。
油蟬は、7年近くを幼虫の姿で地中で過ごす。殻を出て地上に現れてからは約1週間ほどという命だ。
油蟬の苦しいほどの声の熱さは、そのせいかもしれない。
7年間蓄えた、繁殖のための力。それを、最後の1週間で実らせるための熱。
堪えきれずに溢れ出す命が、力尽きるまで全力で振り絞る「声」という形になる。
その声が雌に届き、子孫を残すことに成功すれば、成虫の命は終わる。
「全力で生きた」ということを、私たちの耳にも確かに刻んでいく、油蟬の声。
生きた証を、こんなにも印象的に私たちの心に残すその生は、もしかしたら幸せなものなのかもしれない。
その命が終わる瞬間まで、彼らは生きていることを声の限りに歌う。
生の最後に爆発的に輝く命の音に、時にはじっくり耳を傾けてみてもいい。