掬い上げるもの

日々の中から掬い上げたさまざまな思いを綴る、俳句&エッセイ。 一話があっという間の短さです。 どこから読んでも、好きなとこだけついばんでもよし。 よろしければ、お茶やコーヒー片手に気楽にお付き合いくださいませ。 マイナスイオンを深呼吸したい方も、ぜひお立ち寄りください♪

恋する感触



 人恋ふる感触今も夜店の灯


 夜店は、寺社の縁日などに路傍に開く露店のこと。夏の季語。


 夜店は、縁日や祭りを明るく賑わす大切な要素ともいえるだろう。
 綿菓子や金魚すくい、りんご飴。たこ焼き、お好み焼き。子どものお面や素朴な玩具。
 あちこちから漂う、甘く芳ばしい香りや陽気なソースの匂い。
 裸電球の温かいオレンジ色は、店を営む側も立ち寄った客も一体化させてしまう、不思議な力があるような気がする。


 ——少女の日の、地元の夏祭り。友達と通りをそぞろ歩く。
 夕方頃からは人も増え、夜店は明かりを点し出す。

 その薄明るい裸電球の光は、立ち寄る客ひとりひとりの顔をそれほど鮮明には映し出さない。電球の明かりが届く範囲を、丸くほんのりと照らすだけだ。

 そんな賑やかな人混みの中でも、好きな子のいる場所へは、なぜか視線はまっすぐに飛んで行った。
 自分も友達と一緒。あの子も友達連れ。声を掛けるどころか、近づくことも多分叶わない。
 それでも、屋台を覗き込んで楽しそうに笑う彼の顔を見ると、自分の心もそれまでより何倍も楽しくなった。


 どんな人混みの中でも、視線は恋する人の居場所を瞬時に探し出す。
 なぜなのだろう。いつも不思議に思う。
 その人から、自分だけが察知できる特別な「恋オーラ」でも発生するのだろうか?——何か脳科学的な根拠があるような気がして仕方がない。

 

 今も、夜店のオレンジ色の灯火を見ると、ふんわりと優しい懐かしさが蘇る。
 屋台を覗き込む少年の笑顔が、一瞬、大好きだったあの子に見えたりして。