人恋ふる感触今も夜店の灯
夜店は、寺社の縁日などに路傍に開く露店のこと。夏の季語。
夜店は、縁日や祭りを明るく賑わす大切な要素ともいえるだろう。
綿菓子や金魚すくい、りんご飴。たこ焼き、お好み焼き。子どものお面や素朴な玩具。
あちこちから漂う、甘く芳ばしい香りや陽気なソースの匂い。
裸電球の温かいオレンジ色は、店を営む側も立ち寄った客も一体化させてしまう、不思議な力があるような気がする。
——少女の日の、地元の夏祭り。友達と通りをそぞろ歩く。
夕方頃からは人も増え、夜店は明かりを点し出す。
その薄明るい裸電球の光は、立ち寄る客ひとりひとりの顔をそれほど鮮明には映し出さない。電球の明かりが届く範囲を、丸くほんのりと照らすだけだ。
そんな賑やかな人混みの中でも、好きな子のいる場所へは、なぜか視線はまっすぐに飛んで行った。
自分も友達と一緒。あの子も友達連れ。声を掛けるどころか、近づくことも多分叶わない。
それでも、屋台を覗き込んで楽しそうに笑う彼の顔を見ると、自分の心もそれまでより何倍も楽しくなった。
どんな人混みの中でも、視線は恋する人の居場所を瞬時に探し出す。
なぜなのだろう。いつも不思議に思う。
その人から、自分だけが察知できる特別な「恋オーラ」でも発生するのだろうか?——何か脳科学的な根拠があるような気がして仕方がない。
今も、夜店のオレンジ色の灯火を見ると、ふんわりと優しい懐かしさが蘇る。
屋台を覗き込む少年の笑顔が、一瞬、大好きだったあの子に見えたりして。